【セレク・セレヌ冒険譚解説】
―トルニト・イェンセン著
メルナ教の聖書に記述のある最もはじめの「勇者」として描かれた古代イシュネレイア王朝時代の王の物語。世界的にも多くの人々に親しまれ、舞台劇や吟遊詩人の歌、子供の読み聞かせ絵本にもなっている。しかし一方で非常に謎の多い物語としても有名で、成立した年代も古く文献も複数に渡ること、口伝や吟遊詩人たちが語り伝えたものもあるということを含め、同じ物語でも齟齬が生じている部分も多い。その代表的な例が「セレク・セレヌ」という名前である。聖書をはじめ多くの古文書にも彼の活躍が記録されているが、彼の名前に関する記述だけがことごとく失われているのだ。これほどの偉業を成した人物の名が残されていないのは奇妙だが、実際どの文献にも「イシュネレイア王」、「かの者」といった呼称が用いられている。現在親しまれている「セレク・セレヌ」という名前は、吟遊詩人が語り継ぐ際に名付けたという説が有力である。本書においてもすでに題名にまで用いてしまっているが、「セレク・セレヌ」の呼称で統一することとする。
〇あらすじ
霜海の戦いで連合軍は辛くも魔王軍に勝利したが、イシュネレイア王フェボラスは命を落とす。セレク・セレヌが誕生したのはあくる日の朝であった。フェボラス王がもたらした束の間の平和の中、母スーナヴィヤの慈しみを受けてセレク・セレヌは逞しい戦士として育った。そして打倒魔王ヨースを誓ったセレク・セレヌは、冒険の旅に出ることを決意する。母スーナヴィヤは旅立つセレク・セレヌに赤い果実と青い果実の果実酒を持たせた。アルビルキス、ヴィルヒコック、ストラウネルを仲間に加え、各地の魔物を倒して町村を救いながら旅を続けたセレク・セレヌは、ついに魔王の城に辿り着く。そして死闘の末、3人の供と力を合わせて魔王ヨースを倒し、世界の平和をもたらしたのだった。
〇主な登場人物
・セレク・セレヌ
哀王フェボラスと慈母スーナヴィヤの子として神々の祝福を受けて生まれた、勇者の資質を持つ人間。後に魔王討伐の偉業を讃えて『英雄王』と称される。剣術、弓術に優れ、魔法も操る才も持ち合わせていたが、一方でカナヅチであったこともよく知られている。
・アルビルキス
セレク・セレヌの人ならぬ供の1人。小さな緑色のコマドリの姿をした精霊。傷を治し病を癒す力を持っている。
・ヴィルヒコック
セレク・セレヌの人ならぬ供の1人。怪力自慢の一つ目の巨人で、何にでも変身できる能力を持っている。はじめは敵として登場したが、セレク・セレヌの冒険の旅の最初の仲間となる。
・ストラウネル
セレク・セレヌの人ならぬ供の1人。とがった耳と額に第三の目を持つ種族で、「大魔道士」と呼ばれるほどの魔法使い。炎を風で編んだマントを身にまとっている。
・アガーシャ王
聖書の「王と十二賢者」にも登場する、原初の魔道書『魔想言録』を編纂した王。『セレク・セレヌ冒険譚』では名前のみ登場。
・バエルンハルト、ヴィセ、クレヴィング
聖書の「王と十二賢者」にも登場する、原初の魔道書『魔想言録』の編纂に協力した中でもとくに有名な3人の賢者。『セレク・セレヌ冒険譚』では名前のみ登場。
・魔王ヨース
「十二賢者」の一人。『魔想言録』の編纂の途中に反目し魔の道に進む。魔王となってからは魔王軍を率いて各国を侵略し世界を恐怖に陥れた。
・哀王フェボラス
「十二賢者」の一人。イシュネレイア王であり、セレク・セレヌの父。セレク・セレヌの誕生を待たず、霜海の戦いで戦死する。
・スーナヴィヤ
イシュネレイア王妃でありセレク・セレヌの母。セレク・セレヌを立派な青年へと育て上げ、旅立ちの際にはエルクベリーとシガンベリーの果実酒を持たせた。
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